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理想というまやかし
第2章 憂いの皇子


 軽くキスするだけのつもりでいた未沙の片手に、りとは唾液を塗りつけていた。人差し指を口に含む。僅かに吸い上げて解放すると、続いて指と指の隙間の付け根に舌を伸ばす。


 さんざん文句をつけたDVDは、結局、りとの興味を引いた。

 観ることで興奮しようとは思わなくても、金目当てになりふり構わず痴態を晒して、エゴや理想を演じさせられる女達。まるで見えない鎖に羈束されたような演者の事情を妄想すると、悪くはなかった。


 親友同士のセックスをわざわざ映像作品に仕立ててまで、エロティシズムを誇張したジャケット写真。

 片方の女のどこかで見た顔立ちが、りとの興味をそそったのではない。







 愛乃がりとの職場を訪ねてきたのはそれから一週間経たない内、二度目だ。

 もちろん彼女の目当ては、夕方上がりのシフトの真麻。


 普段は人手が足りていなくてもホールに出たがらないメイドは、りとが愛乃の来店を伝えた途端、蝶のように軽やかな足どりでキッチンを抜けた。メニューをとって、手早くお茶とケーキを準備して、自ら専属侍女を務める客の元へ戻っていく。ここは男装居酒屋なのだが……と言いたいが、客がメイドで満足しているのだから、仕方ない。

 りとは健気な目を輝かせて自分に話しかけてきた女子高生達のテーブルに付いて、時間限定で提供している日替わりランチメニューの内容について説明を始めた。
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