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理想というまやかし
第2章 憂いの皇子
「あぁっ、りとさんが説明して下さると、オムライスがいっそう美味しそうに聞こえちゃう……Aランチお願いします」
「私も!格好良いお姉様に教えてもらうと、耳が蕩けますぅ」
「有り難う。今日のは私がセレクトしたデザートだから、耳だけじゃなく、……」
…──胸の奥まで蕩かせてみせるよ。
身を屈めて、りとが少女の耳にかかった髪にぎりぎり触れない至近でささめくと、同席している友人達が小さく黄色い声を上げた。
キッチンでは、ピークタイムの疲れが顔に出ているメイド達が、見るからに心を無にして業務に勤しんでいた。今しがたのオーダーを伝えたりとに応答した真麻だけ、元気だ。
「Aランチ、ちょうど良かった。あと四食でラストだったよセーフ……!水曜日はりとのチョイスのデザートだもんね、いつもなくなるの早くてさすが」
「真麻も、ちょっとは私にくらっときたことあるだろ」
「そういう意味じゃなくて。甘い物好きの人が選んだら、やっぱり違うなって」
「冷た。ねぇ、私なら真麻を束縛しないよ。勤務後の自由時間も、応相談だよ」
「はいはい。サラダ盛るから、離れてて下さーい」
ほとんど出来合いの品目を皿に並べるだけの工程でも、真麻の手際はてきぱきしている。いつもより言葉数も多いのに、もう三人分のランチが完成近い。口と手は別物らしい。四時まで残すところ八分だ。機嫌が良いのも頷ける。
可愛らしく盛りつけ上がったランチプレートのオムライスに、ケチャップでハートを描きながら、真麻が横目にりとを見た。