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理想というまやかし
第3章 嘆きの娼婦
親が世間の標準を外れていると気がついた時、前世で償い難い罪を犯したか、生まれ落ちた際、体内に毒きのこでも植え込まれたか、愛乃はまず自身の悪目を疑った。
あらかたの女の子達が(女の子に限らないが)煩わしがる勉学と縁が切れたのは、中学校を卒業したのと同時だ。好きか嫌いか判断がつくより先に、高校受験の準備が免除された点においては、もしかすれば親に感謝すべきだったかも知れない。
義務教育だからと渋々通わされていた中学校で、愛乃は三芳(みよし)という同級生と親しくなった。
二年生で同じクラスになった三芳は、愛乃と同じく一着の制服を一週間洗濯しないで着せられていた。土日の内に彼女が自分で洗うのだろう、週明けになって粗い汚れこそ落ちても、彼女自身が常に年頃の女の子らしからぬ匂いを放っていたらしい。いたらしい、というのは、愛乃も倹約家の親の方針に従って、シャワーにはたまにしか浴びられなかった。似た境遇の三芳と一緒にいたところで、彼女の匂いが分からなかったのだ。
愛乃が分からなかったのは、同世代の女の子達の軽蔑の対象が、自分であったこともである。
口数の少ない自分には友人をつくることが苦手だ。それゆえにいつも一人でいる。そう思い込んでいた愛乃は、三芳が口汚い言葉を浴びせられて、ただでさえ綺麗ではない制服に泥水を撒かれていた現場に駆けつけた時、彼女らに同じ暴力を振るわれた。自分以外の人間が自分と同じ目に遭っているのを見て、初めてそれが酷いことなのだと理解した。