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理想というまやかし
第3章 嘆きの娼婦
自分で身の上を選んだわけでもないのに、彼女らの言葉を借りれば「普通の」暮らしをあたかも彼女ら自身の力で手に入れでもした具合に大きな顔をしていた女子生徒達は、愛乃と三芳の友情を道化でも見る目で見下した。汚い豚が、同類の傷を舐め合っている。そんな言葉が聞こえたこともあった。
「愛乃はお化粧して、髪染めて、もう少し肉づき良くすれば絶対美人」
初めて三芳がそう言った時、彼女まで愛乃を茶化すようになったのかと疑った。
髪は邪魔になれば自分で鋏を入れていた。まして化粧品を買うお金もない。親にも同級生にもさんざん醜いと言われてきた愛乃には、美人など遠い世界の褒め言葉だった。
「テレビで観たことがあるんだ、私。小さい頃お金持ちでも、大人になって家をなくしたり、生活保護を受けなくちゃいけなくなる人はたくさんいる。それって小さい頃は不自由でも、大人になったら自由になれるということでもあるんじゃないかな」
「大人は、自由でしょ。貧乏から普通の人生なんて、滝を登れる鰻じゃないんだし」
「愛乃は、頑張れば普通なんかよりずっと愛されるようになる。一人や二人なんかじゃない、たくさんの人に」
今振り返れば、三芳は愛乃と似ていたが、彼女の方がずっと年頃の中学生らしかった。
自我の形成が進んでまもない、心も身体も成長途中の少女達は、根拠もなく希望を持てるものだという。大人になれば何でも出来る。何にでもなれる。無謀を疑う観念がない。