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理想というまやかし
第3章 嘆きの娼婦

 その時期の胆力を維持出来るか出来ないかで、多かれ少なかれその先の人生の差がつくのではないかと思う。少なくとも怯懦や諦めを覚えたが最後、大人になっても子供と変わらず不自由な日々を余儀なくされることになるだろう。親の方針に従うか、社会のバイヤスの支配を受けるか、かしずく対象が変わるだけ。


 愛乃からしてみれば、三芳こそ美しかった。二人とも夜中に親の残飯を漁って食事を確保していた部類なだけに、体つきはみすぼらしくて、ファッション誌で見かけるような発育した同世代のモデル達とは似ても似つかなかったにしても、間近で見ると、三芳のエキゾチックではっきりした目鼻立ちは、愛乃の胸を高鳴らせることさえあった。

 切れ長の目元に煌めく双眸が、愛乃だけを捉えて、さながら夢物語の未来を語る。

 三芳の話に耳を傾けている内に、彼女の理想は愛乃の目標にもなっていた。



 中学校の卒業式を終えたすぐあと、初めて男に身体を売った。

 愛乃が最初で最後の援助交際を決意したのは、二年に渡って三芳と語った自由への一歩を踏み出すプロセスだった。
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