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理想というまやかし
第3章 嘆きの娼婦

 二人とも高校には進学しない。だからと言って親の言いつけ通り履歴書を持って手当たり次第に職探しはしていたにも関わらず、社会経験もない、見るからに体力もなさそうな女の子を正社員として雇ってくれる企業は、三月の時点で見つかっていなかった。
 金を稼ぐとは意外と困難なことではないかと考え始めていた時期でもあっただけに、容易く、その上、数時間と使わないでまとまった金額が入った時は拍子抜けした。

 どうせもう世話にもならない中学校のパソコン室から、年齢を誤魔化してアポを取った男は、三十代くらいの会社員だった。男も自分が出会い系サイトで知り合った少女が、穢せば違法になる年端であることくらい気づいていただろうに、処女という、目前にぶら下がった餌によだれを垂らして愛乃をホテルへ連れて入った。

 男から得た金を握って、初めての売春のあとは、初めての美容院へ行って髪を染めた。ミルクティーベージュの巻き毛を所望して、その足でデパートのコスメ売り場で必要なものを揃えて、いつか三芳が話した通りに化粧も施してみると、愛乃は自分の目がおかしくなったのかと思った。

 鏡の中にいたのは、中学校にもいなかったくらいのまばゆい少女──。

 夜闇にすれ違う通行人達が、愛乃を盗み見ようとしている気配を肌に感じた。女も、男も。男の方は何人か卑しい言葉をかけてきたから、愛乃の目がおかしくなったのではないはずだった。
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