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理想というまやかし
第3章 嘆きの娼婦
愛乃が義務教育の子供というサナギを脱ぎ捨てていた頃、三芳も変貌を遂げていた。約束通りの時間ぎりぎりに公園に現れた彼女は、訊くまでもなく愛乃とほぼ同じ行動を進めたのだろう。ほんのり石鹸の香りを匂わせて、見違えるほど臈たけていた。
別れと出逢いの浮かれた季節、三芳と手を繋いで夜の喧騒を歩く愛乃の胸中は、水を打ったように静かだった。
闇夜に染まった数多の影が、愛乃には群生している黒い何しか見えない。視界の端に映る親友だけが人間として目に映ったのは、彼女が愛乃の特別だったからだろう。世界にたった二人きり、その時の愛乃と三芳は、数時間前まで自分たちを虐げていた子供達に今の姿を見せてやりたいと妄想するのも、もう馬鹿馬鹿しかった。
示し合わせでもしていた風に足を向けたホテルに入ると、愛乃は糸が切れたように三芳にキスした。艶やかな黒髪を綺麗に整えただけの三芳は、髪にかけたお金は今夜のために最低限にとどめておいて良かったと言って、無邪気に笑う。
自分では何も手に入れないで、乳飲み子のごとくぬくぬくと生きてきた女の子達は、三芳のこんな目を知らない。愛乃、と、ささめく度にこぼれる息の熱さを知らない。組み繋いだ指と指の間に滲む、汗のいじらしさを知らない。
愛乃は優越感に眩暈を覚えながら、啄んだ三芳の唇を舌でこじ開けて、まるで遠い昔にひとときの別離を惜しみ合った半身の一部を自身の体内に還元させる心地で、彼女の唾液をしゃぶり上げる。