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理想というまやかし
第3章 嘆きの娼婦
「ああ……愛乃……んっ」
「好きだよ、三芳……三芳が家族だったら良かったのにって、いつも思う……」
「私も……、愛乃……いつか家族になろ?ね、必ず……」
まるで永遠を錯覚するキスを幾度となく重ねる愛乃と三芳の指と指とが、もつれ合う。
昼間の男の残滓を余すところなく追い出したかった。あの男は両親よりは思い遣りを持って接してくれたが、ファーストキスも蕾も奪わせた愛乃に、金の他に何も与えてくれなかった。
三芳は愛乃に与えてくれた。年相応にいだけなかった希望や夢を、彼女が語り聞かせてくれた。一切の感情を動かされることもなく日々をやり過ごしていた愛乃を、無から掬い上げてくれた。
愛乃は三芳の手を引いて、お伽話の絵本に見るような寝台に移る。そして自ら脱衣した。
薄汚れた普段着を落とした愛乃は、きっと今しがたまで以上に三芳に相応しくなっている。
三芳の賛辞を、今夜は素直に受け取れる。自分だけ下着姿なのは不公平だと言って、愛乃は彼女のシャツとミニスカートも脱がせてやった。
人が生涯を誓い合うまでに経る恋愛感情というプロセスは、愛乃と三芳に必要なかった。家族になろうと約束し合った親友のキスを今一度味わいながら、愛乃は三芳の片手をとって、自分の心臓近くへ導く。