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理想というまやかし
第3章 嘆きの娼婦

 三芳の顔は、薄明かりでも分かるほど羞じらっていた。しかし優しい目は愛乃を逸れない。躊躇いがちな手のひらが、愛乃の乳房を覆ってきた。
 愛乃の貧弱な肉体に、昼間の男は刹那落胆の顔色を見せたのに、三芳の視線は熱を増す。ほとんど肉の乗っていない二つの乳房を交互に揉む彼女の息が、キスの隙間を不規則にこぼれる。


「アァッ……ああっ……」


 自分の喉元から立ち昇る声に、切なく淫らな気持ちが昂る。

 こんな声、昼間は出なかった。気色悪さとむず痒さと、激痛。感覚に強制されて喘いでいたのと、今、三芳の愛撫に奏でられて出るそれとは、別人のそれだ。


 軟体動物のようになった愛乃が寝台に身体を投げ出すと、三芳が被さってきた。
 組み敷かれて、敏感な部分をくまなく探り出されても、征服を受けている感覚がしない。打ち上げられた魚よろしく総身をぴくぴくしならせて、腰を踊らせる愛乃は、まるで言葉を覚える前の赤ん坊だ。そんな愛乃に、三芳はたくさんのキスと言葉を注ぐ。


 …──愛乃、一日ですぐ大人になったね。私を置いて行かないでね。楽しいことはこれからだよ。色っぽいよ。愛乃。私の言った通りでしょ、愛乃は物凄く綺麗なんだよ。


 煩わしい下着を全て外した。浮き出た肋骨の曲線を、三芳の指先が伝っていってキスが続く。
 処女膜と呼ばれる肉襞がまだ閉じていた昼間はローションをさんざん塗りたくられたのに、今は不要だ。本当に欲情する相手に身体を預けると、自ずと濡れる。
 夢のように安心出来る匂いが二人を包んで、その出どころが愛乃か三芳かも分からないほど、身体が重なり合っているのだと実感する。
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