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理想というまやかし
第3章 嘆きの娼婦
* * * * * * *
頭のてっぺんから消毒液を被っても完全には排除出来ない悪感に追い立てられるようにして、愛乃はバックヤードに駆け込むなり、バッグに潜ませていた巾着袋を引っ張り出した。
動物性の甘い匂いは、確かにここに包んでいたのに、ただ少し目を離していただけで、今は鼻を近づけてやっと分かるほどあやふやだ。
乾涸びる前、愛液は自らふやかしたちり紙の一部を取り込んでいた。
数日も経てば、ここには何もなかったことになるんじゃないか。消えてしまうまでにこの愛おしい残留物をまたねだれば良いことだが、容易く消えるものを容易く得ても、きっとまた容易く消える。
愛乃は水気をなくした真麻の欠片に舌先を伸ばす。さっきまで咥えていた肉棒とは比較にならない、女の子の綺麗な味が染み込んできた。
寂しく強欲な男達の性処理場で、愛乃は女帝だ。
実際、もし気に入らない客を二度目の指名で退けられる権利を好きなだけ使っても、収入には全く困らない。給料も良く、店は愛乃を重宝している。
しかし愛乃は、ここでは息をしていない。
ライブハウスでペンライトを振ってくれて、あすこをきっかけに店まで流れてきた彼らを含めた客達も、愛乃にはATMにしか見えない。ATMに見えている日は、まだ健全だ。気に入る気に入らないの問題以前に、どんな男も汚物に見える。
獰猛な動物のペニスを素手で世話した仕事上がりは、真麻の一部を摂取して、初めて愛乃は自分自身を取り戻す。