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理想というまやかし
第3章 嘆きの娼婦





 愛乃が帰宅する時間、大抵、真麻は先に就寝している。

 化粧を落として風呂に入って、表面だけでも清潔になった身体をダブルベッドに横たえて、天使のような彼女の寝顔を眺めていると、鼻の奥がつんとする。きっと明け方まで眺めていられる。
 そうしてうっかり時間を忘れてしまわないよう、愛乃は真麻に持たせるお弁当や朝食の献立を考えながら、目蓋を閉じる。寝坊して、恋人を送り出す支度を怠るわけにはいかない。


 …──私、好きな人のいやらしい部分の毛を持ち歩くのが夢だったの。


 髪でも良かった。少女漫画に出てくる女の子達が、よく卒業式に好きな子からもらいたがるという、ボタンでも。

 それなのに、真麻は出逢ってまもない愛乃を女神でも崇める顔つきで、股を開いた。本当に陰毛をくれるとは思わなかったし、彼女に覚えていた好意の類が愛だと自覚した。

 真麻は、まるで鏡に映した愛乃だ。愛乃と違って、彼女は謙虚なコンプレックスから自分の肉体に羞じらいを見せることはあっても、そんな相違は些細なものだ。


 縮れ毛の次は尿、唾液、月経の血。尻の穴に指を挿れて、排泄物を掻き出したこともあった。

 真麻の一部を持ち歩いていると、安心する。持ち歩くことを許可してくれる彼女の思いが、愛乃をこよなく安心させる。
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