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理想というまやかし
第3章 嘆きの娼婦
数日前、朝食のあと真麻を眺めていると、腰の奥が無性に疼いた。どうしようもない衝動に自我を封じられでもしたように、愛乃は化粧台に向かう真麻を後方から抱き締めて、キスをねだった。恋人の戯れに律儀な真麻が甘い声をこぼして応じてくれると、愛乃はますます欲情する。生理中でもない彼女の耳に、血が欲しい、と囁いていた。
最初は陰毛でもびっくりしたのに、真麻が乳房を露出した時、愛おしさがいっそう増した。
これ以上に愛する気持ちは存在しない、その断言は傲慢だった。人はどこまでも人を愛せる。最愛という言葉などない。最愛を超えた愛はあって、きっとそれを超えた感情もある。
ぷっくりと膨れた褐色のコットンパールに剃刀を入れると、真麻が小さく悲鳴を上げた。痛いか、と訊くと、どきどきするのだと返ってきた。愛乃のために滲み出てきた鮮やかな色は、それまで見たどんな赤より美しかった。思わず口づけて啜ってしまって、思っていたより深く切らなければならなくなった。
あの朝、真麻から得た血液も、今は既に色褪せたあとだ。
永遠に色も変えない、愛乃の手が握っていられるものは、どこにあるのか。