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理想というまやかし
第3章 嘆きの娼婦
例の上司達を始め、愛乃らの僅かな観客達は、新参の演者に温かい拍手をくれた。
昨年までただの中学生だったのが信じられない、歌を好きなのが伝わってきた、感動した──。
聞こえの良い言葉の数々に、よしみの空々しさはほとんど感じられなかった。それは彼らが、手放しの賛辞に加えて、デリケートな少女達を挫かない程度に配慮したアドバイスもくれたからだ。
歯に衣着せない教訓は、愛乃達を奮い立たせて背中を押した。
それまで以上に歌唱を独学して、時には仕事を上がったあと、社内のひとけのない場所まで上司達を誘い出して、改善点を訊き出した。
自分のための努力は楽しい。親の肥やしになるだけの事務と違って、三芳と目指す目標は、彼女と語ってきた未来への扉へ愛乃を導く。
無名だった歌い手は、四年後、街の片隅のライブハウスで脚光を浴びていた。
上司達が通い続けてくれていたのはもちろん、ふらっと立ち寄ったライブハウスで偶然見かけてハマったという通りすがりの客も数を増して、彼らの口コミが更に新規の客を呼んだ。バンドを引き受けてくれるという女の子達と利害一致したのも、大きかった。彼女達のオリジナル曲は、音楽に明るくない愛乃達にもクオリティの高さが分かったし、他のチームと組むことで、得られたものは多かった。
驚いていたのは、上司達だ。愛乃達の隆盛は、少なくとも彼らの知る先例ではあり得なかったという。