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理想というまやかし
第3章 嘆きの娼婦



 十九歳になる頃、ライブで生活していけるだけの収入が得られるまでになっていた。

 それでも愛乃が事務職を続けていたのは、両親へのカムフラージュだ。

 愛乃を生み育てた大人達は、子供が労働して得た収入をまるごと懐に入れながら、三芳の家のような借金もないのに、いつも困窮していた。ライブで副収入を得ていることを下手なタイミングで話してしまえば、彼らが三芳との共同貯金にまで頼ろうとする恐れがある。かつての愛乃ほど痩せ細ってもいない父は、たまに酒臭くなって週二回のアルバイトから帰宅する。同じくとりわけふくよかな母は、愛乃でも知っているくらい有名なブランドのバッグを最近また買っていた。
 そんな彼らを素直に同情出来ないほどには、愛乃ももう善悪の区別がついていたから、業務を教えてくれた上司達への恩もあって、スケジュールに無理のない限りは会社を辞めないつもりでいた。

 年に二回のボーナスも一瞬で溶かす両親は、低収入だの役立たずだの、愛乃に辛く当たっていた。

 彼らは、愛乃が中学校の卒業式のあと最初で最後にするつもりだった売春を、二度目、三度目と繰り返すよう強要していた。

 急に髪を染めて化粧した娘を、不審に思わない親は珍しい。
 四年前、金の出どころを問い詰められた愛乃は、窃盗だと嘘をつくよりはマシな答えを返した。折檻や勘当は覚悟した。しかし両親は初めて愛乃を褒めたばかりか、三芳と一緒に今の会社に就いたあとも、生活費が底をつきそうな月末などは、どこからか男を工面してくるようになった。

 パパ活という上品な悪行を三芳と繰り返していた時分から、愛乃は彼女を欺いていた。

 貴女にしか身体は許さない。

 甘く熱い夜を三芳と重ねて、数えきれないほど彼女とのセックスに身を焦がしてきた一方で、愛乃は親の言いなりに男と密会しては、彼らに股を開いていた。彼らの中に、愛乃のような女を買いたがる女を紹介したいという世話焼きがたまにいたが、女とだけは金で交わりたくなかった。
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