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理想というまやかし
第3章 嘆きの娼婦
大きなライブハウスに呼ばれたり、CD制作の話もいくつか持ちかけられるようになったりもして、愛乃は三芳をいよいよ親に紹介しようと腹を決めた。
二十歳になる半年前だ。二人で暮らせるだけの資金は、十分に貯まっていた。十代の出口が目の前まで来ていることもあって、もし親が愛乃達の未来の妨げになるようなら、その場で三芳の手を引いて逃げる覚悟も決めていた。
両親は、愛乃が身構える必要もなかったくらいの快諾ぶりだった。改まった話を切り出すのに相応しい、場所を格式ある料亭を選んだのが、贅沢を好む彼らの気を引けただけかも知れないにしても、ともかく愛乃は事実上の自由を得るまであと一歩のところにまで漕ぎ着いた。
会食は、極めて穏やかな雰囲気だった。
父と母は、愛乃と三芳が一緒に暮らすことも、歌手を目指していることも、ことのほか理解を示した。三芳の方こそ親の許可は得られるのかと危惧する彼らに、愛乃の美しい親友は、父親には親らしいことをしてもらった記憶も未練もない、借金があるから却って成人するまでに返済義務をなすりつけられないよう縁を切ってしまっておきたいと答えた。