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理想というまやかし
第3章 嘆きの娼婦
筋書き通りの台詞を喋って、筋書き通りの濡れ場を演じる。
メインスタッフらが愛乃達に求めた告白シーンは、滑稽なまでに薄っぺらい。事実は小説より奇なり、と叙事詩に含めた昔の英国詩人の慧眼を、今こそ褒めたい。
三芳は愛乃の隠し事を咎めなかった。こんな茶番に巻き込まれても、手切れ金だと思えば安いと言って笑ってくれた。
用意された台詞を一本調子に呟きながら、愛乃は昨夜も三芳に敷かれてよがったことを思い出す。涼しげで優しい黒目が愛乃をつま先まで視姦して、細い指が肉叢を這う。恋人と呼び合ったことはないにしても、身体を重ねるひとときばかりは、愛乃の目に、三芳が皇子か何かに見える。
…──ずっと友達でいたかったのに。女の子じゃ、ダメ?
漫画の読みすぎだろう、わざとだろう。鼻で笑いそうになる稚拙な台詞は、もちろん実際の愛乃達が交わしたことはない。
清潔な寝台に腰かけて、衣装のセーラー服のミニスカートからこれみよがしに太ももをむき出しにして、愛乃は三芳に好意を伝える。
初めて彼女とキスした時、二人とももっとみすぼらしかった。少しは夢見て、だが諦めて、結局、断念出来なかった家族という存在にようやく出逢えた、途方もなく暗い世界の淵で、愛乃は三芳と寄り添って、互いの身体を洗礼した。