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理想というまやかし
第3章 嘆きの娼婦
* * * * * * *
娘のポルノ出演でまとまった金銭を得た両親は、本当に愛乃を手放した。
三芳も一方的に絶縁してきた父親が、一度、会社に乗り込んできた時、事情を知る社員達が彼を通報して以来、何事も起きず今日に至る。
あれだけいかがわしい、それだけでなくマニアックなプレイが加減なく盛り込まれたDVDは、愛乃の身近に手に取りそうな人物も思い当たらない。少しばかり淫らなものなら社内やファン達の目に触れないか気もそぞろになっただろうが、愛乃が三芳と演じさせられた親友同士は、姿の見えない男達の慰み者だ。いやらしくても、現実的なセックスはしていない。
名刺の社員が親に直接話を持ちかけたせいで、愛乃だけ後日もう一本出演を余儀なくされた。しかし人生二度目のポルノ作品も正常な頭の人間なら手に取らない代物だったため、終わった夜は、泣きながら三芳に身体を清めてもらって、ついに過去との決別を遂げた。
胸の奥がいつも甘く疼いている。みだりがましさに溺れる時とは違う、安らかなぬくもりに包まれて、許容量を超えた優しさが全身から溢れる心地は、幸福と呼べる状態だったのかも知れない。
幸福が何かも知らないまま、知らずに幸福を得ていた愛乃は、しばらく経って、夢にまで見た三芳との日常に違和感を覚えるようになった。
彼女と暮らして最初の季節が去ろうとしていた頃のことだ。