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理想というまやかし
第3章 嘆きの娼婦
* * * * * * *
束の間の苦痛に悶えて辞世するより、彼らに絞り上げられてきた分を奪い返すことを選んだのは、真麻との出逢いが待っていたからかも知れない。
三芳と別れてしばらくは、軽い自傷と嘔吐を繰り返しながら、夜の仕事を始めていた。
愛乃ほどの器量ならポルノ出演の方が安全で効率が良いのは分かっていたが、三芳の過去が発掘されやすくなるのを避けたのと、女優の仕事では男達の財を搾取している実感を味わえないと思ったからだ。
昼の仕事に戻るつもりはなかった。
愛乃の女の部分を骨までしゃぶって、傲慢と強欲の餌食にして、三芳を奪った汚物のような男達。
恨みはあの上司にとどまらないし、男という生き物全てから、奪えるものは奪ってやりたい。彼らが社会というものに媚びへつらって、強い立場の相手にはプライドも捨てて頭を下げて、汗水垂らして稼いだ金を、巻き上げるだけ巻き上げる。
そのための努力は惜しまなかった。肌や髪の管理はもちろん体型維持も、化粧の研究もそれまで以上に力を入れた。
ステージから眺望した無数の黒い塊に一点、真麻を象っていた白と桃色は、愛乃の目を釘づけにした。
真珠色の小さな顔に、街でも滅多に見かけない、西洋風のドレスのようなワンピース。
同性だから彼女が人間に見えたのではない。声をかけたのでもない。
いずれにしても、彼女を見つけられたのは運命だった。
…──家族になってくれる人に、逢いたいと思っていたんです。
互いに恋愛をしていないという話の中で、真麻から出たその一言は、愛乃に久しく夢を見させた。