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理想というまやかし
第3章 嘆きの娼婦
復帰して最初のステージで、歌いたかった根拠を悟った。歌は三芳との繋がりだった。歌が、愛乃の自我を産み落としてくれた。
一人でステージに立つようになって、愛乃は自分自身の路線を変えた。
男達に微笑むだけの偶像ではなく、愛を知った人間として。三芳という少女を誰より守りたかった、愛されるだけの女ではなく、誰かを守れる人間として。
強く声を張り上げていたら、三芳にも届くかも知れない。淡い望みを片手に握って、例えば今日、雑踏の隅っこで蹲っているような女の子が、愛乃の叫びに共鳴して、顔を少し上げてくれれば良い。どこかで繋がっていられれば。
…──愛乃さんは格好良くって、ドキドキします。私、勝手に本当のお姫様になった気分にさせられました。
真麻の言葉を、愛乃はきっと待っていた。
誰に見下されてたまるか。搾取され続けたあの頃には、もう戻らない。
母親の浮気で酷い目に遭った真麻は、不義をこよなく憎んでいる。心に決めた相手の他に誰かと親しくすることを、最低の悪だと見なしている。
だから彼女は愛乃だけを見ている。愛乃が視界を覆わなくても、彼女は自ら、愛乃以外の世界を遮断する。
こんな最愛の人はいない。
真麻が忘れろと命じるなら、きっと愛乃は今日にでも三芳を忘れるだろう。