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理想というまやかし
第3章 嘆きの娼婦
無垢な少女にも似た愛乃の想いは、どれだけ恵まれてきた人間でも、羨むほどのものかも知れない。優しい親やなごやかな友人達の輪にいても、多分、孤独な人間はたくさんいる。
だのに二度、三度会っただけの顔見知りは、あの両親でさえ向けてこなかったほどの敵愾心を愛乃に向けて、吐き捨てた。
異常だ、と。
梅雨の明けてまもない、やや蒸し暑い夏の夜。
恋人の友人を招いていることを世間話に含めた愛乃を、たまには女子会を楽しんでこいと言ったオーナーが、気を利かせて早く上がらせてくれた。帰宅すると、夕飯は片付いたあとだったにせよ、真麻とりとは、まだ食後の歓談を楽しんでいた。
二言三言、社交的な言葉を交わして、どういう流れかで愛乃と真麻の友人との間にぎこちない暗雲が垂れ込めてきて、今に至る。
「どういうこと?」
「言葉の通り。愛乃さんさ、真麻を何だと思ってるの。いい加減にしたらどうだ」
「りとっ、……」
真麻は引っ込んでて、と、りとが彼女を庇うようにして後方に下がらせる。
豪奢なお姫様のようなワンピースに身を包んだ真麻と並んだりとは、対する皇子スタイルとでも言うのか。職場ではもっとフォーマルな、いかにも男装が板についている彼女は、プライベートだとほど良く可愛らしさもあって、それでいて決して男の餌食にならない侠気が見える。愛乃が欲しくて、しかしどう足掻いても得られなかったものが、当たり前のように備わっている。
真麻から離れて。そんな風に、彼女を大切な人を見るみたいな目で見つめて、私を苦しませないで。