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理想というまやかし
第4章 哀傷の姫
「何言ってるの」
「真麻も気を遣ってる。私も気を遣ってる。なら揃って一番とるのが、フェアじゃん」
「…………」
「それか私のこと意識してる?」
りとの片手が肩に被さり、綺麗な顔が真麻に迫る。
豆電球の慎ましい逆光に見るりとは、眉を下げて微笑むだけで、格好良い。化粧が顔の熱を隠してくれていることを願う。
結局、真麻が先にシャワーを浴びて、りとが入れ替わりに浴室へ向かった。ドライヤーに時間がかかるだろうという正論を突きつけられたら、真麻が折れるしかなくなった。
夜は深い。りとの住むマンションまで帰っていたら、終電が危うかったらしい。真麻はさっとシャワーを浴びて、長い髪を乾かしにかかった。
シャワーの音が、浴室からだだ漏れている。真麻の身体を伝った水音もりとに聞こえていたのだと思うと、恥ずかしくなる。
長い茶髪が水滴を滴らせないほどになった時、りとが戻ってきた。髪の短い彼女が羨ましくなる。スイッチを切ったドライヤーをそのまま渡すと、りとは使い終えるまで、真麻の半分ほどしかかからなかった。
「懐かしいな、こういうの」
「何が」
「友達と宿泊」
やっと素直に口に出来た。すると、さっきまで恨めしいほど調子の良い顔をしていたりとが、今度は腑に落ちない顔つきをした。
りとは、たまに複雑な顔を見せる。友情の他にどんな感情も寄せていないということを態度で示すのが常の真麻が、たまに懐こい顔を見せると、彼女からいつもの馴れ馴れしさが消える。