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理想というまやかし
第4章 哀傷の姫
木漏れ日が、真麻達に黄金色のしずくを落としていた。快晴を遮る緑の下は、夏でも涼しい。たまに強い風が吹くと、小さい頃は親しんでいた砂の匂いが鼻を掠める。
目前に広がっているような公園も、いつの間にか足を向けなくなっていた。
りとと一緒にいればいるほど、心細いほどの身軽さに、心地良くなる。哀しく儚げな情緒をまとう愛乃とは違う、りとの朗らかで健全な明るさに照らされていると、真麻の内側のじめじめとした部分まで、明日には虹がかかっている気がする。愛乃でなくても良かったのなら自分を選べと言う彼女こそ、その理屈で真麻を言いくるめるつもりではないか。
「真麻と違って、私は色んな子達を悲しませてきた。私を好きになってくれた子を片想いしていた男が逆上して、危ない目にも遭わせたし、そういうことが積み重なって、大学進んだあとは、嫌われるようにあしらった子もいる」
「…………」
「親は、いわゆるこういうセクマイには理解なくて。小さい頃は、いつか彼氏を連れてくるのが楽しみだってよく言われてた。軽いノリだったけど、まぁ、少なくとも私が男嫌いなんて、想像も出来ないんだろうなって、今でも察しはついてるよ」
初めて聞いた、りとの話だ。こんなに人当たりが良くて、職場でもすぐにファンの客が付いたほどなのに、恋愛経験がないなんて、嘘だろうと思っていた。
ありきたりなようで、それはりとだけの話。
聴き心地の良い声が語る彼女の話に、真麻は耳を傾けていた。