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理想というまやかし
第4章 哀傷の姫


 友達同士だったのだと解釈するには、未沙の顔は媚びていた。化粧も、服装もだ。



「あ、真麻、彼女、お隣の──…あ、お話ししていただけなのよ。紹介するわね」

「っ……」

「真麻、待って──これは、違って……」


 光が根こそぎ削ぎ落とされていくのにも似た喪失が、真麻を空っぽにしていく。空っぽになるだけでは足りない。全身の血が青く凍りつくのを感じながら、いっそ氷結した血管に皹でも入って、感情ごと砕け散れたら良いのにと思う。

 また穢れた。穢された。


「騙したのはりとじゃない!私のこと言いくるめて、……」

「違う、聞いて真麻……」

「何でみんな、その人のついでみたいに私のこと嬲り物にするの?!」


 ストラップシューズの留め具もなおざりにして、マンションを飛び出す。

 未沙が何か言い訳していた。聞き苦しい。聞きたくない。

 追いかけてきたりとを振りきって、それでもただでさえ足の速くない真麻が彼女に敵うわけなくて、運良く人が通りかかったタイミングに大声を上げた。


 駅に戻ると、りとからLINEが入っていた。

 未沙が真麻の母親だったことも、配偶者がいたことも、知らなかったという文字の羅列が目に飛び込む。真麻と昨夜ああいうことになって、たまに遊ぶ関係になっていた彼女に友人に戻ろうと伝えるために部屋を訪ねていたのだとも書かれてあった。
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