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理想というまやかし
第4章 哀傷の姫
* * * * * * *
甘酸っぱいフレーバーの紅茶は、夏の夜に冷えた身体によく染みた。飲んでは淹れ、淹れては飲みを繰り返す内に、カフェインが頭を冴え渡らせて、零時を過ぎても睡魔の訪れを遠ざける。
ことりとも音のしないリビングは、昨夜のビジネスホテルより静かだ。
果てないような無音と対峙していた真麻の耳に、鍵の開く音が聞こえた。
「愛乃……!」
主人を待っていたペットにも引けをとらない駆け足で、玄関へ急ぐ。
真麻を見た愛乃は、幻にかどわかされでもした気色を浮かべた。
たった一日離れていただけで、ただでさえ無駄な肉づきのなかった彼女は凹凸の薄い部分が今にも消えてしまいそうなまでに痩せていた。愛乃は、ここまで儚げだっただろうか。ミルクティーベージュ色の巻いた髪の、彼女の剥き出しの肩に流れる様が艶かしくて、挑発的にさえ見える。
「愛乃……ごめん……騙されてたの……馬鹿だった、私……」
…──他の人を信じようとなんてしたから、すぐに罰を受けちゃった。世の中にはもっと悪い人がいて、その人達は平気な顔で生きてるのにね。
りとも未沙も、相手にしただけ無駄だった。未沙とは口も利かずに帰ってきたが、真麻には愛乃しかいなかった。
手当たり次第、守ってくれる誰かを捕まえようとしていたのではない。真麻は愛乃を選んだ七ヶ月前、彼女を知って、見つめて、その上で彼女の手をとった。