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理想というまやかし
第4章 哀傷の姫

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 夢があるのにごめんね、と、絡めた舌がほどけた合間に真麻が言うと、愛乃は少女の微笑みを浮かべて眉を下げた。肉づきがほとんどないのは、りとと同じだ。それでいて遥かにか弱げな愛乃の指が、真麻の腰周りを彷徨う。


「はぁっ、……夢、だっただけだよ。私の夢にはゴールがないの」

「愛乃なら叶う。っ、んっ、私、なんかと出逢ってなかったら、歌手に……なれてた」


 口角を啄んで、唇を吸って、歯列の根本に溜まった唾液をしゃぶる。魂のかたちが変わっても、愛乃の味や柔らかさだけはどこかに染み込んでくれているよう、真麻は言葉も交わしてキスも貪る。

 昔、自刀を決めた中尉と新妻が最後の夜、辞世の契りを交わす話を読んだ。有名な文学小説があすこまで濃密な濡れ場を含んでいたことに、当時は目を瞠ったものだが、語らい合うように身体を重ねる主人公達は美しく、そして真面目だった。

 愛乃とのセックスも、俗的な衝動を伴わない。やはり真面目だと思う。


 身体中から生気が抜け出ていった中でも、シャワーは浴びていて良かった。部屋着を脱ぐと、仄かに染みていたクローゼットの芳香剤を追いかけるようにして、ボディソープの香りが昇った。
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