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理想というまやかし
第4章 哀傷の姫


「ぁっ、うんっ……」


 愛乃の唇が鎖骨に吸いつく。腰の奥の甘痒さが、頭へ太ももへと波紋を広げる。

 ちゅぱちゅぱ……と、啄みの音に呼応する自分自身の声にまで、身体のあちこちが恍惚として、真麻は内股をすり合わせる。

 とりたててひけらかせる器量ではない、真麻は自分のごく平凡な肉体を自覚している。しかし愛乃の視線が降る時だけは、尊ばれていると自惚れられる。たまらなくなって自らブラジャーのホックを外して、じかに揉んで欲しいと彼女にねだった。


「真麻……綺麗。真麻しかいらない……真麻だけが、一番綺麗……」

「一緒に歌っていたっていう人と、私でも?……んんっ、ァッ……私、の方が……好き?……ああぁっ……」


 菅原愛乃という歌姫を生んだ来し方は、残酷だった。彼女の愛した親友か、真麻か。優劣つけろと強いるのも、きっと彼女の傷をかき出す。

 胸のピアスが外れていたのを、愛乃は言及しなかった。あんなものがなくても、真麻は彼女と結ばれる。
 結婚指輪が人間を桎梏出来ないのに、同じ装身具であるピアスにそれを出来るはずがない。

 愛乃が真麻の乳首をこねくる。指の腹を押しつけて、くりくりと円を描いたり、慈しむほどの力加減でつねり上げたりして口に含む。片乳房の先端が彼女の口内に囚われて、舌と唾液の愛撫に聳り立つ。


「ぁんっ!ァッ……アァッ……あぁんっっ……」


 膨らみの麓を這う手のひらに、背中が撓る。

 シーツを掴んだ真麻の手に、愛乃のそれが被さってきた。
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