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理想というまやかし
第4章 哀傷の姫

* * * * * * *

 オードトワレが鼻孔をくすぐってきて、目が覚めた。愛用している女の子達は数知れなくても、真麻にとって、この香りは愛乃だけのはずだった。

 シーツが真麻を包んでいた。真麻自身の体温を含んだそれは、明け方の冷気をほど良く遮っていた。

 今朝に限って何故、この甘くてどことなく妖しい香りは、真麻に愛乃を感じさせなかったのだ。


「愛乃っ!!」


 怖い夢を振り払ってきた勢いで、飛び起きた。
 徐々に昨夜の記憶を取り戻し、真麻は自分がいるはずのない場所にいる事実に愕然とする。


 辺り一面が、白一色に覆われていた。

 天国か地獄のどちらかにいるのは確かだが、いやに現実味のある眺めは、視界の全てが白と言っても、随所によってニュアンスが違う。僅かに覗いた窓の向こうに、青い空が夏の日差しを仄めかせていた。

 愛乃に剃刀を手渡してからの記憶がない。彼女の白い手首から鮮血が滲み出たところまでは思い出せるのに、おそらくそのあと真麻を襲った激痛も、今は名残りも残していない。

 腕には、傷一つなかった。


「真麻……っ」


 騒々しい足音に続いて、目を真っ赤にした未沙が駆け込んできた。りとも一緒だ。
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