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勇者の献上品である聖女は、魔王に奪われその身に愛をそそがれる
第28章 大浴場③
 そんな彼女の様子を見て、魔王の口元に笑みが浮かんだ。細い肩を抱き寄せると耳たぶに口づけをし、嬉しそうに呟く。

「そうだ。そうやって少しずつ本当の気持ちを、口に、表情に出すといい。自分の心に素直にな」

 フィーネはハッと表情を改めると、慌てて口元を押さえた。
 
 今までなら、主人を非難するなど考えられない行動だった。
 以前同じようなことがあったが、すぐに気づき謝罪の言葉が口を衝いたものだ。 
 
(わ、私……魔王様になんて言葉を……)

 しかし魔王がこちらを見つめ、フィーネの行動を肯定するように頷いたのを見ると、心に満ちた恐怖が溶け去っていくのを感じた。

 フィーネの心を取り戻そうとする気遣いを感じ、先ほどまでの怒りが引いて胸の奥が感謝で温かくなる。

 怒りで真一文字に結ばれた彼女の唇が緩み、彼に答えるように小さく頷き返した。
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