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勇者の献上品である聖女は、魔王に奪われその身に愛をそそがれる
第55章 目覚め③
 笑って、少し諦めたような表情を浮かべながら、瞳から流れた涙が筋を作っていた。

 何故、彼がそんな表情を浮かべるのか、今のフィーネには分かっていた。

 心の強さを取り戻した時、何故彼女を抱きしめる腕が震えていたのかも。

 二十年間探し続け、ようやく出会えた愛する人と再び別れるのが辛かったのだ。

 ラファとの戦いがどれだけ続くのか分からない。もしかすると、何十年も何百年もの時が必要かもしれない。

 しかし、ピアチェの力を返したソルに不老の力がない以上、いつか老いて死んでしまう。

 だからソルは泣いていた。

 これがフィーネと交わす、最後の会話なのかもしれないのだと。

 ソルがフィーネに手を伸ばす。

 彼の手を包み込むと、フィーネはソルの額と自分の額をくっつけながら小さく笑った。

「大丈夫よ。すぐ戻るから……」

 そう言って、そっと唇を重ね合わせる。
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