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華夏の煌き~麗しき男装の乙女軍師~
第100章 100 母親
「見て。あのお椅子は高祖もお使いになったかもしれないわ」
「ぼくも座るよ」
「あっ」

 徳樹はするっと星羅の腕を抜け、大きな高い椅子に上り座った。そこへ杏華公主がやってきた。

「あっ! 公主さま。徳樹! おりて!」

 星羅が拱手し、頭を下げながら徳樹を椅子から降ろそうとしたが「よい」と杏華公主は柔らかい声を出す。

「顔を上げなさい。あの子が徳樹か」
「はい」
「よい子ね。そこへどうぞ」
「ありがとうございます」

 星羅は気ままに好奇心を発揮する徳樹にはらはらした。男児にしては暴れることもなく大人しい気質であるが、好奇心は旺盛でよく観察したがる。

「あなたはいいの?」

 杏華公主は養子の件を優しく星羅に尋ねる。杏華公主は、王妃の桃華によく似て優美で儚げな美しさをもつ。たおやかではかなげな彼女が、自分の姉でもあるのだと思うと不思議な気持ちになり、同時に不敬でもあると思った。

「国や徳樹にとって良いのであれば」

 星羅の言葉に杏華公主は優しく頷く。

「うれしいわ。こどもを育てられるなんて。もう産むことができないからあきらめていたけれど」

 一度流産し、もう妊娠できない杏華公主は目を細めて徳樹を眺める。

「あなたも遠慮せずに徳樹に会いに来るのですよ」
「え、いえ、それだと」

 自分の存在が徳樹と杏華公主との関係に悪い影響を与えてはいけないと星羅は辞退する。

「まだまだ公に出ていくことはないし、王太子に即位する頃に徳樹は分別がつくでしょう。いきなり母親と引き離されたらきっと心に傷を負うわ」

 杏華公主の思いやりに触れ、星羅はこの人になら徳樹を任せられるだろうと安心する。

「徳樹。おいでなさい」

 優しい声で杏華公主が手招きすると、徳樹は素直にやってくる。官女がさっと杏華公主に紙包みを渡す。

「ほら。あたくしのお膝に座ってお菓子を食べましょう」

 徳樹は杏華公主の目をのぞき込んでうなずき、膝の上に座らせてもらう。小さな手のひらに紙包みを開かせ、一粒ずつ干菓子を口に入れる。
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