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華夏の煌き~麗しき男装の乙女軍師~
第107章 107 伯爵
 軽やかで優しくかわいらしく、そして温かさを感じさせる音色に晶鈴はしばし耳を傾ける。
音がやんだのでそっとサロンに入る。頭を下げて顔を上げると、チェンバロの隣に中年の身なりの良い男が立っている。

プラチナブロンドの長く艶やかな髪は漆黒のビロードのリボンで結ばれている。端正な顔立ちは美しいが中性的で、広い浪漫国の中のどの地方の出身なのかわかりにくい。
貴族のようで深緑色のビロードのショート丈のジャケットに、膝下丈のほっそりしたズボンをはいている。ショートブーツも艶やかで上等な革を使っているのだろう。

 晶鈴は浪漫国の庶民らしく、生成りの羊毛のワンピースを被るように着ている。

「ジェイコブ様、失礼いたします」

 腰を落とし、晶鈴はあいさつし、客の前でも同じく腰を落とした。

「うんうん。伯爵、この者が占い師のジンリンです。ジンリン、こちらはジャーマン伯爵だ」

 晶鈴がもう一度腰を落とすとジャーマンは「お近づきのしるしに」と指にはめていた紅玉と金でできた豪華な指輪をはずし、晶鈴に与えようとした。掌にのせられた指輪を晶鈴はじっと眺める。

「お気に召さないですか?」
「え、ああ、あの価値はあるようですが身につけるには重たいですね」
「ふふふっ。ジェイコブ殿、面白い人を雇っていますね」
「まあ、ジンリンはそこら辺の者とはやはり違うのですよ。もらっておきなさい」
「資金にはなりますよ」

 晶鈴は、二人の男のやり取りを聞きながらなぜ自分がこのサロンに呼ばれたかまだ分からなかった。

「あの、御用は?」
「いや、用というほどのことではないのだが、伯爵がジンリンに興味を持ったようなのでな」
「はあ」

 ジャーマンは澄んだ水のようなアイスブルーの瞳を晶鈴に向ける。じっと目の奥を覗き、彼に悪意も下心もないと晶鈴は認める。
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