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華夏の煌き~麗しき男装の乙女軍師~
第109章 109 旅立ち
 晶鈴は立ち上がり「会えてよかったわ」ともう一度明々に目をやる。

「とても嬉しそうです」
「さて、ではわたしはもう往くわ」
「もう?」
「うん」

 少女のような晶鈴はいたずらっぽい目を見せる。

「また、会えますか?」
「会いたいときにきっと会えるわ」
「ほんとうに?」
「姿かたちが見えなくても、いつもあなたのそばにいます」
「母上……」
「そんな顔しないの。あなたが一緒に行かないって言ったんじゃない」

 晶鈴は笑いながら、涙を流す星羅の頬を撫でた。

「母上」
「ごめんね」

 ぎゅっと星羅を抱きしめ、晶鈴は彼女の美しい髪をなでる。

「私の最後の執着はこの髪の手ざわりだった。あなたのこの髪に私が生きて残した証があるわ」

 星羅はなぞかけのような晶鈴の言葉を聞きながら、それでも京湖とはまた違う母のぬくもりを感じる。そっと身体を離し晶鈴は星羅の腕をもって目を覗き込む。

「星羅。次にまた求婚されたらお受けなさい」
「え? 求婚?」

 ゆっくり晶鈴は頷く。

「きっとあなたが知らないことを経験できると思うから」
「そんな、夫のことがありますし……」
「いいえ。生きているものが大事なのよ。あなたは夫をそれほど深く愛していたの?」
「それは、もちろん」
「きっと今あなたがそう思っているほど、実際はそうではないと思うわ」
「そんな!」
「ごめんね。言い争うつもりはないの。でもね。あなたはもっと、私以上に深く知れることがあると思うのよ」
「母上……」
「不思議ね。顔はそっくりなのに、中身はまるで違う。私が求めるものとあなたの求めるものはまるで違う」
「そのように言われても、わたしにもわかりません」
「いいの。とにかく少しで頭に入れておいてくれるといいわ」
「わかりました」
「では、これで」

 にっこり笑んだと思ったら晶鈴はふっと消え去った。
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