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第56章 嵌められた主艶女優

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でもまさか、ミドリも気にかけ、
今、マジックミラーの向こうの隣の部屋で
タツヤと初体験をしようとしている綾子が
健一に目をつけられてしまっているとは
この段階でもわかっていなかった。


綾子は、地方から出てきたばかりの、
性体験がないどころか、
彼氏がいたこともない地味な新入生。


一浪していることもあり、
フレッシュというよりはどこか影がある。
女優に抜擢されるオーラを纏っているわけでもなく、
役に溢れた裏方の一人に過ぎなかったからだ。


センスが抜群の照明で
ミドリを浮かび上がらせてくれたタツヤの
助手をしているのでなければ、
主演女優のミドリには、
綾子は存在すら目に入らない
その他大勢だったかもしれない。


健一がその綾子の何に惹かれたのか、
陥れる計画は、水面下で動いていたけれど、
ミドリは、知る由もなく、
ただ健一の自分への態度の変化にだけ気づいていた。


一年以上、健一の作品に出続けてはきたけれど、
女優としての魅力がなくなったのだろうか、
それともマンネリ化してきたセックスライフで、
女としての自分への関心が薄れたのだろうか。


稽古でも私生活でも、
健一の当たりが、急にきつく感じられるように
なったのはその頃からだ。
一年前に、自分から好きになった相手だけに、
ミドリにとっては辛いことだった。


そこで心に安らぎを与えてくれたのが、
ミドリのことをいつも一番に、
考えてくれるルカだ。


ただの話し相手としてだけではなく、
カラダも癒してくれ、
いつしか性的な関係に陥るようになっていた。