この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
真紅の花嫁
第8章 紫苑の教師
どんな経緯で、かつての教え子の面倒をみるようになったのか――
どう尋ねようかと迷っていたら、後ろでドアの開く音がした。
振り向くと、亮が帰ってきたところだった。
「やあ、矢崎さん。よく来てくれたね」
手にコンビニの袋をぶら下げて、にこにこと入ってくる。
スニーカーを脱いだ素足で、真波がいるのを知っても、驚いた素振りもなかった。
冷蔵庫を開けて、買ってきた飲料ビンを袋ごと入れ、ふとテーブルの上を見た。
「あれ、お茶も出さなかったの?」
じろりと眼鏡の女性をにらむ。
紀美子の態度は一変していた。
それまでの余裕のある感じは消え、そわそわと落ち着きを欠いた挙動となっている。
「ご、ごめんなさい。今、入れますわ」
あわてて席を立つ姿は、まるで暴君の前の召使いのようだ。
真波は取りなすように、
「いえ、わたしがいらないって言ったんです」
「だってさ」
馬鹿にしたふうに言うと、紀美子が座っていた椅子に、悠然と腰を下した。
紀美子はどうしていいかわからず、その場に立ちつくす。
年上の女性、恩師に対する敬意など、微塵もなかった。