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真紅の花嫁
第2章 濃藍のフィアンセ
はじめて出会った日のことを思い出す。
真波が朝比奈美術館に勤めだした年、創立二十周年の記念イベントで、市にゆかりのある画家の特集をやった。
目玉は数年前から知られるようになった昭和前期の水彩画家で、朝比奈美術館でも当初から熱心に収集してきた。
その他にも、市に少しでも縁のある画家の作品を、できる限り多く展示した。
その中に、朝山紫郎の作品があった。
正直、ほとんど知られていない画家だった。
くわしい経歴も、朝比奈市との関連も、よくわかっていない。
ただ、〈夕景〉と題されたその絵が、市の中心を流れる川を描いたものなのは確かだった。
赤く染まった水面が、妙に心に残った。
それからしばらくして、地元の企業から美術館に連絡があった。
創業者の旧邸の蔵で大量の絵が見つかったのいうのだ。
一度、見てもらいたいという依頼に、市ノ瀬と真波が対応した。
武藤工業は戦後一気に伸びた部品メーカーで、現在、市内に工場を三つ持っている。
従業員は、臨時雇いも含めて二千人を超え、関連企業も多い。
美術館側としても無下にするわけにはいかなかった。
そして、武藤工業側の窓口が、当時、総務部長をしていた陽介だった。
創業者の一族というから、尊大な中年男を相手にするのかと身構えていたら、現れたのは三十歳になったばかりのスマートな青年だった。
なりたての学芸員だった真波に、陽介は丁重に対応してくれた。