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真紅の花嫁
第2章 濃藍のフィアンセ


蝶ネクタイのギャルソンが、うやうやしくメインディッシュを運んできた。

シェフのお薦めだという子羊のローストは、期待以上に柔らかくジューシーだった。
蕩けるようで、噛むと甘くコクのある肉汁が口の中にあふれる。

「うーん、おいしい」
「む、たしかに」

顔を見合わせて、眼をくるりとまわす。
自然と口元がほころんだ。

「そういえば、今日、姫川のお嬢さんが美術館に来たわ。来週からインターンをしてもらう予定」
「ああ、綾音か」


姫川家は、武藤家の主筋にあたる。

陽介の高祖父(祖父の祖父)の武藤大吾は、もともと姫川家の使用人の息子だった。
苦学して武藤工業を興す時も、当時の当主に世話になったという。

成功してからもその恩を忘れず、戦後、姫川家が没落した後も、代々にわたって経済的に支えているらしい。

さらに綾音の母はもともと武藤家の人間――陽介の叔母なのである。
つまり二人は従兄妹だった。


結婚すれば真波も縁者になるわけで、夕方に酒井館長が真波を気にしていたのもそのためだった。


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