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真紅の花嫁
第2章 濃藍のフィアンセ
「よろしくたのむよ。扱いづらいだろうけど」
「そんなことないわ。素直そうな娘さんじゃない」
「まあ、おやじさんよりは、ね」
綾音の父親は武藤工業の相談役をしている。
陽介ははっきりとは言わないが、相談役と言っても、名ばかりの存在だということは、真波も、うすうす察していた。
「彼女、前から美術に興味があったの?」
「うん。言わなかったかな。
ほら、朝山紫郎の才能を認めた綾乃《あやの》さん
――僕のひいばあさんは知ってるよね」
綾乃は武藤重吉の妻だった女性だ。
その頃はまだ町工場《まちこうば》に毛が生えた程度の会社だったのに、重吉が無名の画家の援助をしていたのも、美術に造詣の深かった綾乃夫人が紫郎の絵を気に入ったためであった。
「綾音って名前は、その綾乃さんに因《ちな》んで付けられたらしいよ。
希久子《きくこ》叔母さんが子供の頃、彼女に可愛がってもらって、すごく憧れていたんだって。
綾音もそれに感化されて、一度、美術館で働いてみたいって言ってたな」