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真紅の花嫁
第14章 茜色の空
真波はその男を思い浮かべようとしたが、なかなかイメージできない。
亮が中学生の頃に六十歳というと、一九五五年前後の生れか。
そこまで考えて、はっとした。
ちょうど朝山紫郎の活躍時期と重なる。
「なんという名前だったか、覚えてますか?」
「桐原タカト。
高貴の貴に人で、貴人《たかと》」
聞いたことのない名前だ。
紫郎や武藤綾乃の関係者にも、その名はない。
いや――真波は記憶をたどる。
朝山紫郎、つまり門倉志郎の息子の名前が、たしか将人《まさと》と言わなかったか。
どこか語感が似ている。
その名も出してみたが、紀美子はやはり聞き覚えがないという。
「何をしている人でした?
職業とか」
「無職」
「え?」
「何にもしていなかったんじゃない?
親の職業欄にも〈無職〉ってあったし」
「それって――
身体をこわしていたとか」
「違うと思う。
正直、そこはよくわからない。
生活保護も受けてなかった」
「その方は、今は……」
「亡くなったわ。
ちょうど亮が中学を卒業するとき。
で、わたしが里親になったの」