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真紅の花嫁
第15章 セピアの記憶
展示室の入り口近くに市ノ瀬直子がいた。
紫郎の生涯を説明したボードの前だ。
後ろ姿を見ながら、少しの間、迷う。
思い切って聞いてみようか。
「市ノ瀬さん、ちょっといいですか?」
「ん?
どうかしたの?」
「あの……」
どう切り出そうか悩んでいると、市ノ瀬は急にあわてだした。
「やだ、何か問題発生?
まさか絵が一枚たりないとか?」
「いえ、搬入作業は順調に進んでます」
懸念を解くべく、真波はきっぱりと顎を引いた。
「そちらは大丈夫なんですが……
武藤綾乃夫人と紫郎の関係について、市ノ瀬さんはどう思われます?」
市ノ瀬は大きな瞳をぱちぱちさせた。
「なによ、突然。
今頃、新資料でも出てきた?」
「そうじゃないんですけど。
ちょっと気になることを聞いて」
「だから、なに」
学芸員モードになって、口調もがらりと変わった。
「あの二人が、ええと……
男女の関係にあった、とか」