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真紅の花嫁
第15章 セピアの記憶
真波の疑問をすぐに否定せず、市ノ瀬は軽く首をひねる。
頭の中の情報を再確認しているのだ。
亮がほのめかした二人の関係。
画家とその支援者だとしたら、あらためて問うはずもあるまい。
最初に想像するのは男女の仲だ。
武藤重吉と結婚する前の綾乃夫人については、不明なことが多い。
彼女が思春期の頃は、ちょうど戦中。
かつて恋仲であった二人が、朝比奈市で再会したという可能性はないだろうか。
ただ、真波自身も、綾乃と工場の旋盤工の間に恋愛感情があったとは、どうしても思えない。
市ノ瀬も同意見だった。
「それはないんじゃない。
そりゃあ、男女のことはわかんないけどさ。
武藤綾乃と門倉志郎がやりとりした手紙の文面を見ても、それらしき雰囲気は感じられなかったよ」
「でも志郎が高崎に帰ってからも、頻繁にお金の無心をしてましたよね。
朝比奈市にいたころは絵を買うという名目があったけど、もうそれもない。
綾乃夫人がいつまでも援助してたのはおかしくないですか?」
やけくそで言ってみる。