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真紅の花嫁
第1章 深緑の美術館
窓の外には、抜けるような青空が広がっていた。
一面のガラス張りから差し込む五月の陽光は、収蔵庫の薄暗さに慣れた眼には、まばゆいばかりだ。
公園の緑も心地よい。
朝比奈《あさひな》市立美術館は、市民の憩いの場となっている城址公園の一角にあった。
周りをケヤキやクスノキ、コナラなどの広葉樹に囲まれ、美術館の建物も落ち着いた緑色のデザイン。
新緑のこの時期、公園の一角にたたずむさまは、親しみやすさと同時に、非日常的で洗練された雰囲気を合わせ持ち、市内でも人気のスポットになっている。
「ああ、矢崎さん。ちょうどよかった。
フライヤー(広報用チラシ)の見本が届いてましたよ」
小太りの中年男が、後ろに若い女性を従え、足早に近づいてくる。
黒縁のメガネに白髪まじりの顎ヒゲ。
いつも柔和な笑みを浮かべているのは、広報担当の田辺だった。
「ありがとうございます」
真波は両面カラー印刷されたチラシを受け取った。
デザインも色具合もとてもよかった。