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 縛師-Ⅰ-告られてから『ごっこ』の終わりまで
第5章  被虐と加虐

 
「リョウはどれが好き?」  

 まだ全てを見終わらないうちに、焦れったそうに千鶴が言う。

「私はこれと……これかな」

 千鶴が取りだした写真の一枚は駿河問と書かれたものと、あぐら縛りと書かれた本と写真だ。

「なあ。このあぐら縛りってどうなってるんだ」

 あぐらを組んで前屈みに縛った絵と写真。同じ構図だが、何かが微妙に違っている。

「後ろ手に縛ってから,あぐらを組ませる。それから絵の方は首に縄をかけて足首と顔がくっつくくらい引き合わせてるでしょ。でも写真のほうは首じゃ無くて肩から背中に縄をかけてる。首にかけると本当の拷問になるから、モデルを使う写真は一時的にこうするんだと思う」


 本気の拷問の絵と、そこから形だけを真似した写真との違い。

 迫力が違いすぎた。


 それいらい、俺と千鶴は蔵に入り浸りになり、責め絵と写真を真似て、千鶴を縛り、解き、また縛った。

 多数の写真や絵から選別し、選んだものに目立たないように印をつける。

 それを繰り返しているうち印が重なるものが何枚も現れた。

 千鶴は「リョウの好みなんだね」と笑ったがそれだけではない。
 
 上手く言えないが、それらの写真を見る度に、縛られた女性の表情が変化して見えたのだ。
 俺は苦痛に歪む女性の顔や姿にも美しいと感じるものがあることに気がついた。

 それは苦痛に耐える表情の中に笑みが含まれているからなのだと、ぽんやり感じ始めていた。

 あの笑みがどこから来るのか知りたいと思った。

 千鶴を繰り返し縛るとき、千鶴もそんな笑みを浮かべた表情になることがある。

 それは主に責め絵を真似して苦痛を与えたときにみせる表情なのだが、何故かの答えを得るにはそのときの俺は余りにも子供で経験値が少なすぎた。

 ともあれ俺達は様々な写真や絵の縛り方を真似することで、手早く縛るための縄の長さ、手順や肌に傷をつけない強さ。そして何よりも安全という、そんな色々なことを学習した。
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