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RINZIN ー隣人ー
第4章 第三話
 涼太は語気を強め、芽生を玄関のドアに押さえつける。いわゆる「壁ドン」の格好だ。涼太はまさか自分が人生で壁ドンをする日が来るなどと思ってもみなかっただろう。

 「涼太さん……どしたの? なんかこわいよ……」

 二人の身長差は三〇センチほどはあるか。芽生は涼太の図体に完全に覆われるかたちになる。

 「あのさ、ちょっと教えてくれ」
 「なに……?」
 「俺がしたい、って言ったらすんのか?」
 「うん……」
 「うん、って……。俺がどんなヤツかも知らねぇのに?」
 「知ってるもん」
 「は??」
 「涼太さんはやさしいでしょ? 私を助けてくれたもん」
 
 昨夜から、芽生との会話はどこか成り立たないと感じていた涼太。成り立たないというか、煙に巻かれているような感触なのだ。

 芽生がはじめてあいさつにおとずれたとき、それなりに敬語であったし礼儀や常識をわきまえていたように思う。だから見た目は若くとももう少し落ちついた印象があった。

 しかしそれから──たった今も、涼太には芽生が実年齢よりもひどく「幼く」感じられていた。この違和感の正体は、芽生のこのちぐはぐさであろう。はじめて見たときと今まではまるで別人のように雰囲気がちがうのだ。

 「言っておくが、俺はやさしくなんかない。それは誤解だから」
 「そうなの……?」
 「ああ。だから俺がやさしいからこんなことする気になったって言うんならやめとけ」
 「でも……」
 「なんだよ?」
 「じゃあ……私がただ涼太さんと『したい』じゃダメ?」
 「は……?」

 芽生はまったくはばからず、上目遣いにそう言う。

 「男の人はさ、みんな言うじゃん。そのへんの女の子を見て、ヤリたいとかヤリたくないとか」
 「それが……どうしたんだよ」
 「それに理由ってあるの?」
 「理由……? んなもん顔がかわいかったとかおっぱいがデカかったとか、人それぞれだろ?」
 「ふーん。じゃあいいでしょ。私がそうしたって。女の子がそういう気持ちになったっていいじゃん。もうお礼とかじゃなくて、私が涼太さんとしたい。これじゃダメ?」

 (本当になんなんだ、この女……わけわかんねぇ)
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