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RINZIN ー隣人ー
第9章 第八話
 「汚された女、って思う? それとも私のことを『かわいそう』だって思うかな。そうだよね。レイプされた女の子はかわいそうで、一生その傷を背負って生きていく──そう思ったりするのかな。でもね私は、そんなのどっちもイヤなの」
 「どっちも嫌……?」
 「うん。イヤ。私が自分自身でそう思ってるのはいいの。でも、そんなふうに誰かに私の気持ちを勝手に決められるのはイヤなの」

 初対面のときの落ち着いた雰囲気とも、食事の際に見せた幼さとも、セックス時の妖艶さともちがう──等身大の芽生がそこに居ると、このとき涼太はそう感じていた。

 「私の気持ちも、私の身体も、私のものなの。全部私が決めるの。私はなにも失ってないし、なにも減ったりしてない。そう思うのって変かな。そう思っちゃ……ダメなのかなって」
 
 芽生の言葉の端々にみられる過去とその片鱗──きっと涼太の想像し得ない出来事がそこにはあったことがうかがえる。軽率な気持ちで告白してきたであろう涼太への牽制ともとれるその言説には、蔑みも憐れみも不要であるとの強い意志を感じる。

 「……ごめんね。涼くんにこんなこと言ってもしょうがないのに。でも……私こんなだからさ。きっとほんとの私のこと知ったら『付き合いたい』なんてもう絶対に言えなくなるよ。だから──」
 「俺さ、バカだから今までなんにも考えずに生きてきてさ」
 「涼くん……?」
 「人の気持ちなんて考えたこともなかったし。そういうの正直めんどくせぇっていうかさ。女なんてヤレりゃいいと思ってた。てか多分今でもそう思ってる。でも……」
 「でも……?」
 「今ちょっと考えてる。ヤベー俺はじめてかもな、人の気持ち考えんの。だから話してくれてありがとな」
 「涼くん……」
 「軽い気持ちで告ったら百倍になって返ってきた感じするわ。最低だな俺」
 「ちがう……ちがうよ? そうじゃなくて……私は涼くんが思ってるようなコじゃない──」

 すると涼太は体勢を変え、芽生の上に乗る。
 そして二人は見つめ合う。
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