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氷の戦乙女は人たらし公爵に溺愛される〜甘く淫らに溶かされて〜
第1章 1章 くすんだ太陽
 カミリアは騎士の後ろを歩きながら道を見回し、疑念を抱く。確かに崖沿いではあるが。彼が言うほどの細道ではない。ふたり並んで歩いても、少し余裕がありそうだ。
「君が言うほど、細い道とは思えないがな」
「こ、高所恐怖症でして……」
「そのわりには、平然と歩いているように見えるが?」
「怖いですけど、副団長達の一大事ですから……」
「……」
 騎士の返答に、カミリアの疑念はますます深まっていく。

 この騎士はカミリアが入団した数ヶ月後に入ってきた男だ。剣の腕はからっきしだったが、当時騎士団長を務めていたドゥムが、立派なブロンドだからという理由で入団させた。入団後も稽古はほとんどせず、そのくせブロンド髪を理由に威張り散らす、ろくでもない男だ。
 荒野で暴れている魔物の討伐へ出向いた際、彼は剣を振り回して戦っているフリをしただけで、1体も倒せていなかった。そんな男が、ドゥム達のために高所恐怖症を克服しながら道案内をするだろうか?
 そもそも高いところが怖いのなら、途中でこっそり引き返してくればいい。この男なら、そうしてもおかしくない。
 考えれば考えるほど、悪い考えが脳内を占めていく。

「ここです、あの洞窟です!」
 開けた場所に出ると、確かに洞窟があった。洞窟の上には大小様々な岩が転がっており、いつ崩落してもおかしくない。
 警告音が、脳内にやかましく鳴り響く。それでもカミリアの中に、引き返すという選択肢はない。
「行こうか」
「す、すいません……。暗いところだけは、どうしてもダメで……」
「……分かった、君はひとりで帰るといい」
 罠である可能性が高まるも、洞窟へ向かう。違和感を覚え、中を確認しようと洞窟の前で目を凝らしていると、パラパラと小石や砂が落ちてくる。

(まさか……!)
 嫌な予感が過り、後ろに大きく飛び跳ねる。少し遅れて大岩が洞窟の穴を塞いでしまった。少しでも遅れていたら、カミリアは大岩の下敷きになっていた。
「死ねええぇっ!!!」
 ドゥムが大剣を振り下ろしながら、頭上から襲い掛かってくる。それを避けて洞窟の上を見上げると、ドゥム派の騎士達が下卑た笑みを浮かべて見下ろしている。彼らが大岩を落としたのだろう。
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