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氷の戦乙女は人たらし公爵に溺愛される〜甘く淫らに溶かされて〜
第1章 1章 くすんだ太陽
「ケリー騎士団長……」
 ハーディはカミリアの前に小さく折りたたんだ紙を置くと、一礼して出ていった。紙を開いてみると”今日はクッキー”と書かれていた。
「まったく、ハーディったら」
 苦笑するその顔は、年相応の乙女そのものだった。

 真夜中、カミリアがレイピアの手入れをしていると、ドアが小さくノックされる。音を立てないようにゆっくり開けると、トレーを持ったハーディが立っていた。更にドアを大きく開けてハーディを招き入れると、カミリアは優しい笑みを浮かべる。
 普段は騎士団長と第3部隊の隊長という間柄だが、夜になると幼馴染に戻る。この時間は、カミリアにとって数少ない楽しみのひとつだ。
 悪魔が支配すると言われている夜に出歩くのはご法度だが、そのスリルがこの時間をより格別なものにしている。

「待ってた」
「私も。この時間、楽しみにしてた」
 どちらかともなく笑い合うと、ハーディはテーブルの上にトレーを置く。トレーにはふたり分のココアとクッキー。カミリアはココアをひと口飲むと、小さく息を吐く。

「今日は本当に焦ったんだから。ラウルさんがいなかったらと思うと、ゾッとするわ……」
「ごめんって……。反省してるから、お説教は勘弁して」
「今回ばかりはお説教免除とはいかないわ。だいたい、カミリアは昔から無茶し過ぎなの。もっと自分を大事にしてよ」
「ココアとクッキーがまずくなる……」
 カミリアがすねた子供のように言いながらクッキーをかじると、ハーディはやれやれとため息をつく。

「もう、いつもの凛々しい騎士団長様はどこに行ったのかしら?」
「だからごめんって……。死ぬつもりはないから安心して」
「安心できないから怒ってるんだけど……。けど、心強い新人がいるし、今日はこの辺にしといてあげる」
 説教が終わったことに安堵し、カミリアはもう1枚クッキーを食べる。久しぶりの甘味に頬を緩めるが、幸せな表情はすぐに曇ってしまう。
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