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氷の戦乙女は人たらし公爵に溺愛される〜甘く淫らに溶かされて〜
第1章 1章 くすんだ太陽
 質問していた騎士はカミリアを見て青ざめる。
「いや、この話はもう終わりにしようや」
「いいじゃないですか。ケリー団長は美人すぎるから近寄りがたいですけど、仲間思いのとても優しい女性ですよ。それに、美しいブロンドをお持ちですが、威張り散らしたりしませんし」
 少し離れていたところで聞いていたカミリアは、驚いてラウルを見る。偶然なのか必然なのか、ラウルと目が合い、優しく微笑みかけられて目をそらす。

「なんなの……」
 カミリアは戸惑いをごまかすように、シチューを口に運ぶ。女だから舐められてはいけないと、誰にも気を許せずにいる。私情を押し殺し、ひとりでも多くの仲間や民を守ろうと剣を振るい続けた結果、冷徹な氷の戦乙女という異名がつき、仲間からも恐れられた。表向きでは「それくらい箔がついたほうがいいだろう」と言っているが、そんな異名はほしくなかった。
 先程のラウルの言葉は、カミリアの本心を見抜いたように思えて、胸がざわつく。

 カミリアは飲み物だけ持って自室に戻った。
「私が優しい? 会って間もないくせに、何言ってるんだ? それとも、甘いとでも言いたかったのか……。それに、美人すぎるだなんて……」
 ラウルの言葉が妙に気にかかり、イライラするのと同時に、ときめいてしまう。冷静さが欠けていることに気付き、水を飲んで深呼吸をする。
「ただのリップサービスだ、惑わされるな。それに、負けると分かっていても、真剣勝負をすると決めたではないか」
 自分にそう言い聞かせ、少し気持ちが落ち着いた。カミリアは時間になるまで、自室で瞑想するのだった。

 夜、訓練所は松明で囲まれて明るい。ギャラリーの中には夜に堂々と外にいられることに浮かれる者も、ちらほらいる。
 夜空には悪魔が潜むと言われているこの国で、夜に外に出るなど本来なら考えられない。だが、騎士としての精神力をためす意味合いも兼ねて、団長戦はあえて夜に行われる。
 訓練所の中央に、カミリアとラウルが向き合って立つ。ふたりは剣を構え、殺気で牽制し合う。ふたりの凄まじい殺気に、浮足立っていた者も静かになる。
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