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氷の戦乙女は人たらし公爵に溺愛される〜甘く淫らに溶かされて〜
第1章 1章 くすんだ太陽
「ケリー副団長とお呼びください、ラウル騎士団長」
「そう怒らないでよ。せっかくの美貌が台無しだよ? もう遅いし、そろそろ部屋に戻るよ」
 ラウルはひらひらと手を振り、ドアに手をかける。何かを思い出して振り向くと、妖しい笑みを浮かべた。
「そうそう、昼でも夜でも男が訪ねてきたら、もっと用心しなきゃ。君みたいな美人とふたりきりになったら、男は何をするか分からないから」
 怒りでわなわなと震えるカミリアに構うことなく、ラウルは部屋を出ていった。

「最っ低!」
 怒りに任せて声を張り上げると、ドアの向こうから笑い声が聞こえてくる。
 カミリアはベッドに寝そべり、枕に顔を埋めた。甘いものが無性に食べたくなる。
「ハーディ……」
 気弱になり、親友の名を呼ぶ。普段は弱りきった自分を見せるわけにはいかないと、ハーディにも愚痴をほとんど言わないようにしているが、今ココアとお菓子を持ってこられたら、泣きついてすべて吐き出してしまいそうだ。
 それほどのストレスを、ラウルはカミリアに与えた。

「はぁ……、お風呂に入ろう……」
 着替えを用意すると、女性用の風呂場へ向かう。ちなみに騎士団の女湯は、カミリアが騎士団長になってから作らせたものだ。厳罰覚悟で、女性騎士が増えてきているから作って欲しいとサウラに頼んでみたところ、「何故もっとはやく言わなかった」と怒られたのは、いい思い出だ。
 ハーディと会えることを期待しながら湯浴みをするも、ハーディどころか誰とも会うことなく終わった。残念だと思う反面、少し安心した。

 今女性に会ったら、甘えてしまいそうな自分がいる。自分がどんな思いで騎士団長になったのか、それを軽薄な男に奪われたのが、どれだけ悔しいのか、打ち明けてしまいたい。だが騎士として、そんなことは許されない。
 女性騎士達はカミリアの苦悩や無念を理解してくれるだろう。それでも誰かに甘える自分を、カミリア自身が許さないだろう。
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