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氷の戦乙女は人たらし公爵に溺愛される〜甘く淫らに溶かされて〜
第4章 フェガリ
 剣と数冊の軍学書を持ったカミリアは、城の前に停まっている立派な馬車を見つけた。紺色に塗装された美しい馬車は、派手好きのシャムスではお目にかかれないだろう。
 馬車に近づくと、御者の男性が恭しく一礼し、ドアを開けてくれる。中に入ると、ラウルがにこやかに出迎えてくれた。
「カミリア、こっちにおいで」
 そう言ってラウルは、自分の隣を軽く叩いた。本当は向かいに座りたかったが、できるだけ仕方なく隣に座る。ドアが閉まり、馬車が走り出した。

「屋敷まで少し時間がかかる。その間、ちょっと話をしようか」
「その前に、どうしても言いたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「うん、いいよ」
 気持ちを落ち着かせようと小さく息を吐くと、身体ごとラウルに向けた。そして……。
「存じ上げなかったとはいえ、公爵様に数々のご無礼を……」
「そういうのやめてよ。僕のワガママでこういうことになってるんだから。だから、頭を上げて」
 言葉を遮られ、頬に手を添えられて顔を上げさせられる。思ったよりも近くにあるラウルの顔に、不覚にもドキッとしてしまう。

「ですが……」
「カミリア、僕は特別扱いされるのが嫌だったから、身分を隠してたんだ。それに、君達と過ごした日々は、とても充実してた。だから、謝らないで」
「は、はい……」
 頬を染めて目を逸らすと、柔らかな笑い声が耳をくすぐる。

「剣を握った時は誰よりも勇ましいのに、初心で可愛いね。けど、パーティまでに慣れてくれないと困るな」
「善処しますから……その、離れてください」
「寂しいなぁ」
 心底残念そうな声が聞こえるのと同時に、体温が離れていくのを感じる。ラウルが座り直したのを気配で察すると、彼に顔を向けた。

「公爵様、先程……」
 唇に人差し指を添えられ、言葉が途切れる。ラウルを見ると、つまらなそうな顔をしていた。
「その呼び方もやめようね。いいかい? 僕と君は恋人のフリをしなくちゃいけないんだ。それだけ初心だと、ぶっつけ本番は厳しいだろう? だから、今から恋人の振る舞いをしないといけない。いいね?」
 叱るというより、拗ねた子供の様な口調に、笑いそうになるのをこらえる。
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