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濡れた視線(改定版)
第5章 誘惑への序章
リビングに戻り宅配ボックスから取り出した紙袋を開けると、途端に辺り一面が魅惑的な香りに包まれ、丁寧に畳まれた衣類を1枚づつ取り出せば、セクシーなホワイトムスクの匂いがボクサーパンツから香り立ち、その潤子らしい柔軟剤の匂いを鼻腔に近づけると、黒い小さな不織布がはらりと滑り落ちていた。

(色も同色だし、見誤って入れてしまったのだろうか?それとも…意図的に?)

サテン地にレースの透かし模様が艶めかしい黒いヒップハングのショーツを手に、正直に連絡すべきか否や、それは日を置けば置くほど訝しく思われ、手渡しで返す方も受け取る方も、その羞恥に憚られる。そして錯綜させる迷いを断ち切るように、勇矢は潤子に向けたラインを送った。

【潤子さんへ、せっかく洗濯物を届けて下さったにも拘わらず、気づかずに申し訳ありませんでした。実は夏季休暇中にも拘わらず仕事上の事で今朝方帰宅し、インターフォンにも気づかない程の熟睡でした…。それと紛れ物がありましたので、勝手ながら裏庭伝いに縁側に周り、同様の紙袋に入れて置かせて頂きました。 勇矢】

潤子へのラインを送り、仕事から今朝方帰宅したと嘯く胸をなでおろす勇矢。既に15:00近い時刻に空腹感はピークを越え、得意な汁なし釜揚げうどんを手際よく茹でると、潤子から貰った大蒜のたまり漬けをミキサーに入れ、バージンオリーブオイルと豆板醤、そして煎りゴマに黄卵を加えたソースを作り、トッピングにオクラと納豆を添えて食せば、旺盛な精力を司るブランチは、瞬く間に平らげられていた。

思えば先週の土曜日に引っ越しを終え、日曜から続くこの5日間、潤子が魅せる魔性に魅せられ続けていた勇矢。でも、それは勇矢だけに限らず、潤子が募らせる勇矢への想いも明白となった今、湯気の立ち昇るバスタブから茜色の夕空を窓越しに望めば、勇矢の胸の中に去来する予感が俄かにざわめき始め、脱衣場で高鳴る携帯電話が潤子からの電話と知らしめると、勇矢の予感を確信めいたものへと昇華させていた。

『勇也さん?今お電話大丈夫かしら…』

『こんばんわ、今お風呂から上がったばかりですけど、洗濯物を届けてくれて、ありがとうございました…』

携帯越しに聴こえる潤子の声は思いの他ケロッとした声で、勇矢の懸念を他所に、照れ笑いまで弾ませていた…。
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